「ふじのみやの道祖神」展
2014年08月12日掲載
道祖神と人々のかかわりを紹介します。
富士宮市には数多くの道祖神があり、古くから人々に親しまれてきました。富士宮市教育委員会では、平成14年度に市内の道祖神の調査報告書を刊行し、郷土資料館では「富士宮市の道祖神」展を開催しその成果を紹介しました。
このたび、富士宮市教育委員会では、平成22年に合併した旧芝川町域を含めた追加調査を行い、『富士宮市の道祖神 改訂版』を刊行しました。
1 富士宮市の道祖神
道祖神とは
道祖神は、古い道筋や辻、集落の外れなどに祀られている。地域によっては「サエノカミ」、「サイノカミ」、「ドウロクジン」、「チマタノカミ」、「猿田彦神」、「久那土神」などとも呼ばれる。
道祖神は、身近な存在として様々な形で信仰された。道端にある交通・旅の神や、集落の外れや辻にあって災いの侵入を防ぐ神、また夫婦和合・子孫繁栄や子供の守り神とされる。時には雨乞いや病気平癒など、集落・個人の日々の様々な願いが込められた。
富士宮市内には、道祖神を祀る場所が342ヶ所、道祖神が398基ある。年代が判明するもののうち、最も古いものは元禄2年(1689)に作られたものである。
富士宮市内道祖神数一覧
地域 | 道祖神数 | 祭祀場数 |
---|---|---|
上井出 | 13 (双体7 文字4 自然石2) |
13 |
白糸 | 16 (双体13 文字3) |
14 |
上野 | 57(双体35 文字20 自然石2) | 45 |
北山 | 63 (双体38 文字12 自然石13) |
52 |
富丘 | 51 (双体30 文字17 単体1 題目2 自然石1) |
42 |
大宮 | 58 (双体25 文字29 単体1 自然石3) |
55 |
富士根 | 84 (双体50 文字27 単体1 自然石6) |
69 |
稲子 | 3 (双体2 文字1) |
3 |
柚野 | 27 (双体13 文字14) |
24 |
芝富 | 26 (双体4 文字20 自然石2) |
25 |
内房 | 0 | 0 |
合計 | 398 (双体217 文字147 単体3 題目2 自然石29) |
342 |
様々な道祖神
双体像
文字碑
自然石
単体像 (富士市)
丸石((山梨県)
石祠 (山梨県)
富士川と道祖神
富士宮市内には数多くの道祖神があるが、富士川西岸の内房地域には1基も確認できない。内房地域では1月14日にどんど焼きを行い、ヤマや団子などその内容・様式は他の地域と共通するものの、道祖神との関連はない。
道祖神は日本各地で信仰されているが、地域性が強く、富士宮市のように数多く祀る場所がある一方で、全く存在しない場所も多い。富士川西岸には道祖神の分布が薄く、隣接する富士市南松野では1基、静岡市清水区では8基が確認される。
静岡県においては富士川が民俗分布の境界のひとつになっていると考えられており、例えば疫病神に関する民俗行事として富士川以西には送り神行事、以東には目ひとつ小僧(一つ目小僧)の来訪譚が分布する。なお、富士川を境とした道祖神分布の差異は山梨県では見られない。
内房・瓜島のヤマ
2 道祖神のまつり
道祖神の夏祭り
市内では、夏に道祖神の祭りを行う場所がある。道祖神に題目や経をあげる仏式の祭りが多いが、浅間大社周辺の地域では神式で行われる。
道祖神は集落の外から来る災いを防いでくれるとされ、夏祭りは災い=疫病除けの祭りだと考えられる。幕末期の大宮町の造酒屋当主の日記『袖日記』には、疱瘡やコレラに対して道祖神に祈る様子が記されている。夏は疫病が流行し易く、祇園祭(天王祭)などの疫病除けの祭りが行われる。
富士宮市内道祖神の夏祭り一覧
場所 | 日程(H24年) | 方式 |
---|---|---|
青木・阿原口新道 | 7月下旬土曜日 | 神式 |
淀師・渋沢 | 8月最終日曜日 | 仏式 |
淀師・金の宮 | 8月最終土曜日 | 仏式 |
淀師・大谷戸 | 8月下旬土/日曜日 | 仏式 |
淀師・上中村 | 8月最終日曜日 | 仏式 |
淀師・下中村 | 8月最終日曜日 | 仏式 |
朝日町7・8町内 | 8月下旬土/日曜日 | 神式 |
淀町・横丁 | 8月最終日曜日 | 仏式 |
淀町・田町 | 8月最終土曜日 | 神式 |
宝町・神保町(西町・新立町) | 7月14日 | 神式 |
宮町・宮本町 | 8月第1土曜日 | 神式 |
西町・貴船町 | 現在実施せず | |
朝日町・筋違橋 | 現在実施せず | |
北山・馬場 | 現在実施せず |
どんど焼き
1月14日、市内各所でどんど焼き(どんどん焼き)が行われる。現在は周辺の土曜日や日曜日に行われることが多い。
道祖神がない内房地域など一部を除き、市内各地では、どんど焼きは道祖神の祭りとされている。現在は田んぼや空地で行われることも多いが、かつては道祖神の前で行われた。また、どんど焼きの際に道祖神の依代として隣にヤナギやハナと呼ばれる飾り物を立てる集落がある。他にも、正月飾りを積み上げておんべ竹(御幣竹)や御神木を中心に立てたヤマを作る集落があり、おんべ竹やご神木が道祖神の依代と考えられる。
どんど焼きの火で団子を焼いて食べると風邪を引かない、焦げたところを食べると虫歯にならないなどと言われる。市内では、「サンボンヤリ」・「ミツマタ」と呼ばれる三又になった枝に、米粉で作った団子を3つ挿して焼いている。白い団子を3つ挿したり、食紅で赤色・緑色に染めた団子を作り3色の団子を挿したりする。なお、内房の瓜島は市内の他の集落とは異なり、竹竿に角餅を挿して焼いている。
ご神木を立てるヤマ(白糸)
おんべ竹を立てるヤマ(貫戸)
2つ作るヤマ(猪之頭)
道祖神の飾り物
どんど焼きの際、「ヤナギ」や「ハナ」などと呼ばれる飾り物を道祖神のそばに立てる場所がある。これは、竹を割いて柳の枝のように垂らし、紙で作った飾りをつけたもので、市内では根原・上稲子・人穴・芝山・杉田で作られている。集落によって形や呼び名は様々であり、根原・上稲子では「ヤナギ」、人穴・芝山では「ダシ」と呼ばれる。杉田では「ハナ」と呼ばれ、幟と共に道祖神の近くに立てられる。
根原では、ヤナギは道祖神の依代とされる。ヤナギを倒した後、輪に丸めて屋根に投げ上げ、火伏のまじないにする。古くなると道祖神の元に返され、翌年のどんど焼きで燃やされる。
ヤナギ(ハナ)は山梨県の北部地域や富士川流域に広く見られ、山梨県との関係が考えられる。また、富士地域では氏神のお日待ち(祭礼)の際に竹を割いて飾りをつけた飾り物を立てる集落があり、どんど焼きのヤナギ(ハナ)との関係が考えられる。
杉田のハナ
上稲子のヤナギ
人穴のダシ
根原のヤナギ
道祖神に返されたヤナギの輪(根原)
屋根に投げ上げられたヤナギの輪(根原)
道祖神を焼く
どんど焼きを行う場所は道祖神の前とされる。道祖神を火であぶるため、どんど焼きの場所が移動したためその時だけ道祖神を前に運んで行う集落もある。山宮・下蒲沢では、どんど焼きの火の中に道祖神を投げ入れる。
現在は、道祖神が火で傷んで来たため、隣に祀った自然石を代わりに投げ入れている。他にも道祖神を焼く集落があり、また、かつて焼いていたと伝承する場所も多い。道祖神をどんど焼きの火で焼いたりあぶったりすることには、どんど焼きの神聖な火で道祖神を清め、力を回復させる願いが込められている。
また、道祖神を焼く習俗については、伊豆地方には次のような昔話が伝わっている。
年の暮れの事八日(12月8日)に一つ目小僧(疫病神)が道祖神の所にやって来て、来年病気にさせる村人の名前を書いた帳面を預かってくれるように頼んだ。翌年の事八日(2月8日)に一つ目小僧がやって来て帳面を返してくれるように言うと、道祖神は、どんど焼きの火で帳面は焼けてしまったと言って一つ目小僧を追い返した。そうして、道祖神は村の災いを助けたのである。
伊豆地方には帳面を持った道祖神の像があり、疫病神が帳面を取りに来る前にどんど焼きで燃やしてしまうために道祖神をどんど焼きにくべるのだという。疫病神とどんど焼きに関する伝承は、富士山東麓から神奈川県西部にかけての地域や山梨県都留郡にも伝わっている。富士宮市内の習俗についても周辺地域との関係が考えられる。
道祖神を焼く集落一覧
集落名 | 現在 |
---|---|
人穴・人穴 | 有 |
山宮・下蒲沢 | 有 |
山宮・新屋敷 | 有 |
宮原・宮原上の上 | 有 |
村山・堀込 | 有 |
山宮・中沢 | 無 |
北山・辻 | 無 |
北山・角木沢上 | 無 |
杉田・田上原下 | 無 |
杉田・立石 | 無 |
小泉・叔母ヶ懐下 | 無 |
小正月
1月1日(元旦)の「大正月」に対して、1月15日(又は14日~16日)を「小正月」と呼ぶ。小正月には各地で様々な民俗行事が行われるが、特に農業などの生産に関連するものが多い。小正月にどんど焼きを行う地域も多く、市内でも1月14日夕方にどんど焼きを行う集落が多い。
小正月には様々な作り物を作ることとも一般的であり、モチバナ(モチバラ・マユダマ)やケズリバナ(ケズリカケ・ハナ)を作って神棚や玄関などに飾る。かつてはこの日に餅をつく家も多かった。モチバナは、様々な形に作った団子をモチバナの木(ミズキなど)に挿した飾り物である。豊作を予祝するもので、農作物や俵、おめでたい宝船などの団子をたわわに飾る。養蚕が盛んになると繭の豊作を願って繭の形の団子を飾り、「マユダマ」とも呼ばれるようになった。
幕末期に大宮町の町役人を勤めた佐野与市(角田桜岳)の日記(『角田桜岳日記』)には、1月14日にケズリバナやモチバナ、魔除けのニュウギなどを作る小正月行事が行われている様子が記されている。また、日記には、与市がこの日に道祖神を参詣していることや、どんど焼きが行われていることなども記されている。
道祖神に供えられたケズリバナ
道祖神に供えられたモチバナ
モチバナ
白鳥山とどんど焼き
白鳥山は、市内内房と山梨県南部町にまたがる標高568mの山である。白鳥山周辺に位置する内房・下稲子地域では、次のような伝承を理由としてどんど焼きを行わない。
- どんど焼きをすると、白鳥山の白坊主(白い髭のおじいさん、またはおばあさん)が「ほーい、ほーい」と呼ぶため、気味が悪くなりやらなくなった。(内房、下稲子、上長貫)
- どんど焼きをすると、白鳥山から白髭の白坊主が出てきて子供をさらう。 (内房・峯)
- どんど焼きをしたら、対岸の白鳥山から白鳥が多く飛来し鉾を散らした。そのせいで伝染 病が部落中に発生して大騒ぎになったため、それ以来やらなくなった。 (下稲子)
白鳥山の南に位置する大鏡山にも、どんど焼きをすると災厄を負うとする類似の禁忌が伝わっている。また、どんど焼きの飛び火による火災を禁止の理由とする集落もある。どんど焼きを行わない集落では、正月飾りは氏神社へ持って行ったり、他集落のどんど焼きで燃やしてもらったりする。
どんど焼きの禁忌については、戦国時代、白鳥山に置かれた武田氏ののろし台に関連して、のろしと見間違える可能性のあるどんど焼きを禁止したことに由来するとする説もある。しかし、山梨県側の白鳥山周辺集落では古くからどんど焼きを行っており、禁忌の伝承も伝わっていない。また、白鳥山周辺の集落のうち、静岡県側には道祖神がないが、山梨県側には石祠や丸石、双体像などの道祖神が分布している。白鳥山とどんど焼きの禁忌については、道祖神の有無ともあわせて検討する必要がある。
白鳥山周辺集落のどんど焼き実施状況一覧
どんど焼きを行わない集落
集落名 | 白鳥山/道祖神の有無 | 伝承 |
---|---|---|
下稲子 | 見える/無 | 白坊主 |
内房・橋上 | 見える/無 | 白坊主 |
内房・峯 | 見える/無 | 白坊主 |
内房・尾崎 | 見える/無 | 白坊主 |
内房・落合 | 見える/無 | 白坊主 |
内房・大嵐 | 見える/無 | 火事説 |
内房・野下 | 見える/無 | 白坊主 |
内房・山口 | 見えない/無 | 火事説 |
どんど焼きを行う集落
集落名 | 白鳥山/道祖神の有無 | 伝承 |
---|---|---|
上長貫 | 見える/有 | 白坊主 |
内房・瀬戸島 | 見える/無 | 白坊主 |
内房・相沼 | 見える/無 | - |
内房・廻沢 | 見えない/無 | 白坊主 |
内房・竹之下 | 見えない/無 | - |
内房・仲 | 見えない/無 | - |
内房・瓜島 | 見えない/無 | - |
山梨県南部町十島 | 見える/無 | - |
山梨県南部町万沢・下宿 | 見える/有 | - |
山梨県南部町万沢・御屋敷 | 見える/有 | - |
白鳥山周辺集落のどんど焼き実施状況
白鳥山
白鳥山前でのどんど焼き(上長貫)
3 周辺地域の関わり
山梨県富士川流域との関わり
富士宮市の道祖神は、信州(長野県)方面から甲州(山梨県)を経てもたらされたものと仮定される。このルートとしては、富士山北麓からの郡内道と甲府からの甲州往還(中道往還)、富士川流域の道・富士川舟運などが考えられる。
富士川舟運は、静岡県と山梨県を結ぶ重要な交通路として江戸時代から明治時代にかけて多数の物資や人が行き交った。このため、富士川沿いには、経済的な結びつきだけでなく、共通した習俗や文化が見られる。カワガンジー(カワカンジョウ・カワカンジイ・カワクヨウ)や投げ松明、ヒャクハッタイ(ヒャクハットウ)などと呼ばれる特徴的な盆行事は、山梨県から静岡県にかけての富士川沿岸の広い地域で行われている。
山梨県富士川流域には、どんど焼きの際に飾り物「ヤナギ」を立てる習俗があり、ヤナギのなかには富士宮市内のものと類似したものもある。上稲子・宮地のヤナギは、復活させるにあたって山梨県身延町大島付近のものを参考にしたという。根原ではヤナギを輪に丸めて火伏のお守りとして屋根に投げ上げるが、身延町などでも同様の習俗が見られる。また、富士川流域は、様々な道祖神が分布する山梨県内のなかで双体道祖神の多い地域でもある。
今後、周辺地域の道祖神やその習俗と比較検討し、道祖神のきた道を考える必要がある。
ヤナギ(山梨県南部町)
ヤナギ(山梨県身延町)
双体道祖神(山梨県身延町)
お問い合わせ
教育委員会事務局 教育部 文化課 埋蔵文化財センター
〒419-0315 静岡県富士宮市長貫747番地の1
電話番号: 0544-65-5151
ファクス: 0544-65-2933